ナイチンゲールとメアリー・シーコール
英国で起こっている不可思議な出来事
5月11日(火)
明日、5月12日は、ナイチンゲール生誕201回目の記念日です!
昨年は新型コロナ感染症の蔓延で、ウエストミンスター寺院で行われるはずだった記念日当日のセレモニーが中止になり、私は参加する予定で準備していましたので、本当に残念な思いでした。
今年も世界中で感染が止まず、英国でも大方の行事はWEB開催となっているようです。ナイチンゲール生誕祭もWEBとのアナウンスですが、それでも昨年に比べたら一歩前進です。
さて、本日はナイチンゲール生誕記念日に事寄せて、近年、英国で起こっている不可思議な出来事をお伝えします。
この話をカナダのナイチンゲール研究家のLynn先生から聞いたのは、もうだいぶ前のことですが、事態は大きく進展してきている状態なので、日本のナイチンゲールファンの方々に、事実をお伝えしたいと思います。
今、ロンドンの聖トマス病院を訪れますと、玄関前の広場に巨大な「メアリー・シーコール」の銅像が建っているのが目に入ります。(写真の銅像の後ろの建物が聖トマス病院です)
以前、そこにはナイチンゲール看護学校の校舎があり、病院玄関前には「ナイチンゲール像」が建っていました。ナイチンゲールに対抗しているようで、またナイチンゲールを押しのけて英雄視されている感じで、明らかに違和感があります。聖トマス病院のナースたちや、看護学校跡地に造られた「ナイチンゲール博物館」の関係者はこれを快く受け入れているのでしょうか?
メアリー・シーコールはジャマイカの女性で、クリミア戦争当時、個人で前線近くの軍基地でホテルを経営して、そこで食料や物資を提供し、ボランティアとして傷ついた兵士たちへのケアを行っていました。その行為がクリミア戦争後に賞賛されたようです。彼女はナイチンゲールよりも年上で、看護師として訓練されたことはなく、帰国後も病院で働いたことはありませんし、看護教育にも携わってはいません。また看護関係の書籍を出したこともないのです。
しかし2003年に「100人の偉大な黒人のイギリス人」というキャンペーンがネット上で実施された際、シーコールの人気が一番だったことから、英国看護協会がシーコールを看護界にとって重要な人物として取り上げるようになったようなのです。今ではシーコールをナイチンゲールと同等の戦場の英雄として祭り上げ、近代看護に貢献した人物として、ナイチンゲールと並ぶ偉人に仕立て上げています。「メアリー・シーコール財団」も創設されています。何とも不可思議な出来事です。もちろんシーコール自身は人格的に、また社会的に優れた人物であるでしょう。当時のイギリス人による人種差別問題とも闘った女性としてその勇気と行動力は称えられて然るべきです。
その「シーコール財団」とイギリスにある「ナイチンゲール財団」とが手を結び、この度、シーコールとナイチンゲールの「パートナーシップ賞」を作るという話が持ち上がっているそうです。二人が共に近代看護を発展させてきたというわけですが、これは事実と大きく乖離しています。作られ、歪められた歴史認識です。
ネットという媒体においても、これはネット社会ではよくあることですが、とんでもないデマをまき散らしています。そこではシーコールは看護師であると断定されていますし、クリミア従軍を申し出たときにナイチンゲールに断られたことから、ナイチンゲールを人種差別者としてレッテルを貼っています。またシーコールはなぜか晩年に医師になったという作り話まであります。事実は、シーコールは確かにクリミア従軍を願ったようですが、ナイチンゲール看護団に続く第二次募集の時に、政府筋の人たちから拒否されたようです。シーコールに病院看護の経験がないこと、そして当時のことですので、彼らにはやはり黒人差別意識があったかもしれません。因みにシーコールの夫はイギリスで医師の資格をとって働いていました。戦場でシーコールとナイチンゲールは会っていますが、お互い何のトラブルもなかったようです。シーコール自身のナイチンゲール評価は、きわめて好意的でした。
ネットに記事を書く人は、どうしてこのような勝手な作り話を平気で書くのでしょう? 最近、ナイチンゲールを「悪者」に仕立てあげるということが、書籍の中でもチラホラ見受けられます。それはアメリカにおいてもみられる一般的現象ですが、白人が作った歴史の否定、再考という側面があるのかもしれません。
目下、Lynn・McDonald 先生を中心にして、ナイチンゲール研究者の方々が、心をひとつにしてこの問題と取り組んでいます。
日本ではほとんど知られていない出来事ですが、ナイチンゲール研究者の一人としては見過ごせない現象です。
ただこのことについて、昨日「ナイチンゲール財団」のグレタ所長から丁寧なメールをいただきました。それによれば、今回のシーコール財団との連携事業は、イギリスにおけるマイノリティの看護師や助産師のリーダーたちに力をつけて、不平等を是正し、医療サービスを改善することが狙いだと書かれていました。やはり事態の裏側には、その国の隠された事情があり、イギリスにおいては人種問題は相当根が深いものだと思い知らされました。
私が書き送ったメールには、長年にわたって日本におけるナイチンゲール思想の影響は大きく、実践の場をも動かしているという実態を述べたのですが、それについては大いに関心を持たれたようで、是非話したいとおっしゃっています。
これを機に、ナイチンゲール財団との交流が実現できるような気がします。
皆さまも是非、この問題に関心をお持ちいただき、今後の展開に注意を向けてみてください。また、事実に添って正しい評価をしてください。
今年の生誕記念日が穏やかな1日でありますように!!
我が家の玄関先に咲いた「テッセン」です。清楚な白で、見ると心が安らぎます。
日本の感染症の行方が心配ですが、何とか乗り切れるといいですね。
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