新・看護(ケア)の5つのものさし -理論的背景と活用法-

ナイチンゲール看護研究所

金井 一薫

2024年6月

はじめに
 2023年度に改訂した新「看護(ケア)の5つのものさし」(以下、「5つのものさし」という)は、金井一薫が構築した「ナイチンゲールKOMIケア理論」に内包され、「ナイチンゲールKOMIケア理論」が提示する看護の理念を具現化するように提案されたものである。
したがって「5つのものさし」は、折々の具体的看護実践においてその方向性を示唆し、個々の看護的行為を“看護であるもの”に導くように道筋を示す。
それはまた行われた看護実践の意味を思考させ、確かな看護実践の足跡を残すことに寄与するものである。
 以下に「5つのものさし」創生に至る論理的思考のプロセスを述べ、理論活用の概念図を提示したうえで、活用の方法について提示する。

Ⅰ.ナイチンゲールKOMIケア理論の構造と概略

 ナイチンゲールKOMIケア理論とは、近代看護創設時に打ち立てられたナイチンゲール思想を、現代の看護界において活用可能なものにすべく、筆者が構築した「看護理論」である。
 「看護理論」とは、看護の本質や目的を解き明かし、理論を実践に移す道筋を説いた理(ことわり)である。どのような些細な実践にも「看護理論」を内在化させないと、看護行為は、たとえそれが最高度の技術であったとしても、単なる技術となり、看護実践の目的とその方向性を見失った行為となってしまう。
したがって、看護実践の展開には、必ず看護の目的を明らかにした理論の活用が不可欠なのである。(金井、2019)
 また「看護理論」は、「看護学」の基礎を形成し、実践に対する深い理解と科学的根拠を提供し、看護師が質の高いケアを提供するための基盤となる。
 「ナイチンゲールKOMIケア理論」は、上記の見解に沿って構築したものである。
 先行理論としては、薄井坦子が『科学的看護論(第3版)』(2014)で提唱する「看護学論」を最も進んだ看護学説として認識し、薄井が述べている「看護学の構造」(目的論・対象論・方法論)を前提として、「ナイチンゲールKOMIケア理論」を構造化した。

 以下にナイチンゲールKOMIケア理論の構造図(2024.5作成)を提示する。
 構造図では、紫色の線で囲まれた内容を「ナイチンゲールKOMIケア理論」の構成要素とする。
それは「目的論」「対象論」「方法論」「いのちのしくみ」「疾病論」の5要素で構成される。
 看護学が学問としての構造を持つには、学問の対象となる「目的論」「対象論」「方法論」の3要素は、必ず備えていなければならない。
ナイチンゲールKOMIケア理論は、看護実践の目的(目的論)を示し、実践の対象である人間存在を包括的にとらえ(対象論)、看護実践が看護になるための方法を示す(方法論)。
さらにこの構造においては、医学の視点ではなく看護独自の視点でみる「いのちのしくみ」と「疾病論」を内包させることで、看護学の独自性を保証する。
ナイチンゲールKOMIケア理論の特徴はこの点にある。
 また、ナイチンゲールKOMIケア理論の内容は、臨床看護に方向性を与え、質を確保するための「管理論」と、看護教育の内容に資する「教育論」に影響を及ぼす。さらに「看護理論」の内容は、研究者たちによって学的研究の対象となる。
多くの研究がなされていけば、理論は検証され、かつ新たな見解が提唱されて、学問としての「看護学」は深化していくであろう。
 これまで世に出た看護理論は多くあるが、それらはいずれもここに提示した5要素の全てを含んではいない。
特に看護師が人体の構造と機能を学ぶとき、看護実践の方向性を示唆するように書かれた書物は少なく、大半は医師が学ぶ医学領域に属する知識を活用している。看護学は独自の知識体系を把持していなければならない。
そのためには「ナイチンゲールKOMIケア理論」が示す5要素は必須の要件となる。

Ⅱ.新「看護(ケア)の5つのものさし」創生のプロセス

1.「5つのものさし」の特性
 「5つのものさし」は、「ナイチンゲールKOMIケア理論」の「目的論」を導き出す過程で創生されたものである。
したがって「5つのものさし」は、実践者に看護とは何かを明確に示唆し、今、対峙している対象を見つめる視点を確かなものとし、同時に実践の方向を提示する。
ナイチンゲールKOMIケア理論は「5つのものさし」を内包することで、実践を“看護であるもの”(What it is)に限りなく近づけることが可能となる。

2.「ナイチンゲールKOMIケア理論」の「目的論」を導き出すプロセス
 「ナイチンゲールKOMIケア理論」における「目的論」は、ナイチンゲール思想をその根底に置く。
それゆえに「目的論」は、ナイチンゲール思想から導き出され、看護のあり方を明示した文章として表される。

1) ナイチンゲールの言葉から看護の定義を探る。
ナイチンゲールは1893年の論文の中で次のように述べた。

ナイチンゲールの言葉
新しい芸術であり新しい科学でもあるものが、最近40年の間に創造されてきた。それは<病人を看護する芸術>である。
この芸術を“本来の看護”と呼ぼう。
もう一つは<健康についての芸術>である。
これはどの家族にも関係があり、家庭生活のなかにあるものである。
これを“健康を守る看護”と呼ぼう。

 ナイチンゲールは、看護には病人の看護と健康を守る看護という2側面があると表明したが、それらは別々に存在するのではなく、「看護の原理」は同じであり、「自然の法則に則った看護」という視点によって連結された2側面は、一つになって看護の全体像を結ぶとした。
 そこで「病人の看護」における看護のあり方と、「健康を守る看護」のあり方の2側面について、ナイチンゲールの考え方を明らかにし、そこから導き出される「看護の原理」を抽出することにした。
 まず「病人の看護」のあり方を思考するプロセスを(1)とし、「健康を守る看護」のあり方を思考するプロセスを(2)として論述を進める。

2) 思考のプロセス(1)=病人の看護のあり方について
思考のプロセス(1)を辿るには、まず「病気とは何か」について明らかにしなければならない。

ナイチンゲールの言葉
すべての病気は、その経過のどの時期をとっても、程度の差こそあれ、その性質は回復過程であって、必ずしも苦痛を伴うものではない。
つまり病気とは、毒されたり、衰えたりする過程を癒そうとする自然の努力の現れであり、それは何週間も何か月も、ときには何年も以前から気づかれずに始まっていて、このように進んできた以前からの過程の、そのときどきの結果として現れたのが病気という現象なのである。(『看護覚え書』1860)
ナイチンゲールの言葉
病気は、健康を妨げている条件を除去しようとする自然の働きである。
それは癒そうとする自然の試みである。
われわれはその自然の試みを援助しなければならない。(『病人の看護』1882)

 上記の文章から、ナイチンゲールは「回復過程という性質をもつ“自然の試み”を援助すること」が看護であると述べているのが分かる。
“自然の試み”とは、体内に宿る「自然治癒力」や「生命の維持機構の具現化」として認知できるものであり、看護という営みが、体内の回復過程に着目するがゆえに、「いのちのしくみ」を看護の視点で学び、それに沿って展開されなければならないことを教えている。

そして、さらに踏み込んで、ナイチンゲールは「看護とは何か」について、以下のように明文化した。

ナイチンゲールの言葉
看護がなすべきこと、それは自然が患者に働きかけるに最も良い状態に患者をおくことである。
 
看護とは、新鮮な空気、陽光、暖かさ、清潔さ、静かさなどを適切に整え、これらを活かして用いること、また食事内容を適切に選択し適切に与えること
こういったことのすべてを、患者の生命力の消耗を最小にするように整えること、を意味すべきである。(『看護覚え書』1860)

以上の文章から、「病人の看護」=「本来の看護」を実現するためには、以下の3点に留意しなければならないことが浮き彫りになった。
  (a)自然の回復過程(生命の維持機構)を促進させること
  (b)そのためには、生活を取り巻く条件・状況を最良の状態に整えること
  (c)加えて、生命力の消耗を最小にするように整えること

3)思考のプロセス(2)=健康を守る看護のあり方について
思考のプロセス(2)を辿るには、「健康とは何か」について明らかにしなければならない。
ナイチンゲールは、1893年の論文において「看護とは何か」というテーマに次いで、「健康とは何か」について、その定義を明らかにした。

ナイチンゲールの言葉
健康とは何か? 健康とは良い状態をさすだけではなく、われわれが持てる力を充分に活用できている状態をさす。
 
(What is health? Health is not only to be well, but to be able to use well every power we have.)(病人の看護と健康を守る看護・1893)

上記の文章から、「健康を守る看護」にとっては、以下の2点に留意しなければならないことが浮き彫りになった。
  (d)もてる力の活用をはかること
  (e)生命力の増大をめざすこと

Ⅲ.ナイチンゲールKOMIケア理論における看護の定義

 思考のプロセス(1)および(2)から導き出される看護の原理の上に立ち、ナイチンゲールKOMIケア理論においては、看護の定義を以下のように措定する。

 「看護(ケア)とは、人間の身体内部に宿る回復のシステムが、十分にその機能を発揮できるように、生活過程を整えることであって、それは同時に対象者の生命力の消耗が最小になるような、あるいはもてる力を活用して、生命力が高まるような、最良の状態を創ることである。
 さらに看護(ケア)とは、生命力を増大させ、今以上の健康の助長を目指して(時には死にゆく過程を、限りなく自然死に近づけるようにすることも含まれる)QOLの向上と、その人らしい生活の実現を図ることである」

 つまり、看護実践の目的は、本来、「いのちのしくみ」として体内に備わっている「回復過程=回復のシステム=生命の維持機構」が発動するように、生活過程を最良の状態に整えることである。
 そのためには、その時々の「体内の回復過程のあり様」に着目し、人体がもつ回復の力を見据えることが肝心となる。
人体がもつ回復の力は、終末期においても発揮される。
終末期にあっては、体内のすべての細胞、臓器が衰弱しながらも、バランスを取りながら安定した状況を創りあげていく。
このプロセスを「自然死への過程」とよぶ。看護(ケア)は、その人の最期がいのちのしくみに沿って、静かに、穏やかに経過するのを見守り、支援するのである。
終末期においては、過剰な治療や過干渉に加え、看護(ケア)の不足あるいは誤りもが人体の自然死への過程を妨げ、大きな消耗と苦痛を与えることがある点に留意すべきである。
「いのちのしくみ」の学習の重要性はここにあり、これが看護(ケア)の“核”となる視点である。
 また、看護(ケア)によって体内の回復過程を促進させるためには、その時々における「生命力の消耗を最小にする」ように注意しながら、今ある、「もてる力を活用する」ことが不可欠の要件である。看護は単に諸技術を駆使するだけの仕事ではない。
患者とのかかわりが常に相手の生命力の消耗が最小になるように、また相手のもてる力を最大限引き出すように行われるのである。
 その先に目指す目標(ゴール)が定まるのであるが、それを「QOLの向上とその人らしい生活(死)の実現」と定める。
「その人らしい生活の実現」とは、「本人が望む生活の実現」と置き換えてもよいであろう。
この目標は看護のみならず、保健医療福祉実践が目指す目標とも一致しており、現代社会の課題である多職種の連携と協働の世界を創造していくにあたっての共通の視点となる。

以上の思考のプロセスから、新「看護(ケア)の5つのものさし」を作成した。

Ⅳ.新「看護(ケア)の5つのものさし」
・ものさし① 生命力の消耗の最小化
・ものさし② もてる力の活用
・ものさし③ 回復過程の促進
・ものさし④ 生命力の増大(自然死への過程)
・ものさし⑤ QOLの向上とその人らしい生活(死)の実現

Ⅴ.新「看護(ケア)の5つのものさし」相互の関係性と実践のプロセス

1.相互の関係性について
看護は人間の生活に深くかかわり、一人ひとりの生活と人生に寄り添って展開していく実践である。ゆえに看護実践は、対象者がいかなる状況にあっても、絶えずその人のそのときどきの生命の質と生活の質(QOL)の向上、およびその人らしい生活(死)の実現をめざして行われる。
5つのものさしの相関図を、以下に提示する。(【図1】を参照のこと)
5つのものさし①と②の活用によって実現するのは、まずは「回復過程の促進」と「生命力の増大」であり、それによって、本来のその人の生のあり様と、生活のあり様に近づき、その人らしさを実現させる手助けができるのである。

【図1】5つのものさしの相関図

2.実践のプロセスについて
看護ケアが目指す目標(ゴール)に行き着くためには、一定の実践のプロセスを辿らなければならない。(【図2】を参照のこと)

【図2】実践のプロセス

❶ 看護は対象の状況の観察からスタートする。
観察は現象の意味を読みとること(現象の看護的意味づけ)につながる。
現象の意味を読み解けば、それが「看護ケアに必要な情報」となる。
 例えば、四六時中、痛みを訴えている患者、高熱が下がらない患者、ベッドで本を読んでいる患者、共有スペースのソファーで一人寂しそうに座っている患者、大声を出して叫んでいる患者、ほぼ1日中寝たきりの患者、徘徊している患者、食べられなくなって、体重減少が著しい患者、眠れない患者、ほとんど訴えのない患者、こういった様々な現象を見たときに、その意味を看護的にとらえることが必要なのである。
そのために、つまり≪観察≫および≪情報収集≫を行う際に大事になる視点が、①のものさしと②のものさしである。
「この方の訴えや行動の意味は何だろうか?」
「今のこの現象は、この方の生命力を消耗させていないだろうか?」
「この方にとって、今、生命力を消耗させている事柄は何なのだろう?」
「今、もてる力はないだろうか?」
「今、残された力はないだろうか?」
このような視点をもって、五感によってとらえた現象を観察し、判断する(アセスメントと呼んでも差し支えない)のである。
看護活動の出発点においては、“何を”“どう”読みとるかが、次の行動への鍵となる。

❷ 次に、生命力を消耗している事柄を発見したり、また回復過程を妨げている事柄を見い出したりしたならば、それを解決するためにケアの選択を行い、それを実行に移す。
ケアの選択は、「回復過程の促進」や「生命力の増大」を念頭において立案される。
従来通りのルーティンワークや一般論として提唱されている解決策が、必ずしもその時の回復過程の促進につながらないことがある。
回復過程のあり方は、環境条件や外から与えられる刺激の種類や量に大きく左右されるので、看護(ケア)が回復過程を促進するように、また妨げないように、適切なケアを選択することが肝心である。
またその人の「もてる力」を見出したならば、それを組み込んで援助の具体的内容を提示することも重要である。
もてる力が発揮されるとき、体内では回復のシステムが発動されやすいからである。

❸ 一連の看護(ケア)が終了したならば「評価」を行う。
評価の判定は、以下の点に沿って行うとよい。
 1) 回復過程が促進し、生命力は増大したか?
 2) 自然死への過程をたどることができたか?
 そう考える根拠は何か?
結果を評価するにあたって、その指標と成り得るものは、KOMIレーダーチャートやKOMIチャートの変化である。
チャートを使って評価を的確に行うためには、KOMIレーダーチャートやKOMIチャートを作成する初期の段階で、チャートの観察項目と並行して、具体的な臨床的数値や諸症状、心理的特徴や人間関係、さらにはADLなどに注視して記録することが望ましい。
評価の段階において、それらの変化が、チャートの変化と並んで評価判定尺度になるだろう。

❹ 目標(ゴール)に達成したかをみきわめる。
 1)QOLは向上したか? 
 2)その人らしい生活(死)を実現することができたか?
 そう考える根拠は何か?
 最終目標に達したかどうかを判定するためには、この時にもKOMIレーダーチャートやKOMIチャートの変化が指標となる。
KOMIレーダーチャートによって「生命力の幅の拡大」(生命の質の向上)が見て取れるし、KOMIチャートの黒マーク数の増減によって、「その人らしい生活の実現や自立度」また「その人らしい死の実現」、さらにQOL(生活の質)が読みとれることから、これが評価判定尺度となる。
 最終ゴールを見極めるためには、日頃の患者とのかかわりのなかで、常に情報を得る機会をつくり、その人の望む生活やありたい姿をイメージし、目標に向かって日々の活動が展開されることが前提条件となる。
 
 さて、上記の❶~❹のプロセスは、いつも順調に一方向に進むとは限らない。
特に❶・❷のプロセスを繰り返すうちに、❷のケアの選択が何度も変更されることがある。
結果として❸の評価の段階に進むが、評価の段階で、回復過程を妨げてしまったと考えられる場合、または自然死の過程を妨げてしまっていると推察される場合には、再度❶・❷に戻って、新たなケアの選択をしなければならないこともある。
以上を図で示すと【図3】【図4】のようになる。

【図3】
【図4】

Ⅵ.「看護(ケア)の5つのものさし」理解のためのキーワードの説明

1.生命力の消耗とは何か
(註)以下の内容は、CHAT-GPT Vol.4よりの抜粋である。記述が適切であると判断したので提示する。

生命力の消耗とは、生物体のエネルギー、体力、精神力などが減少または弱まるプロセスを指す言葉
1)身体的な消耗:
•労働や運動:肉体労働や過度な運動は、エネルギーと栄養素を大量に消費し、体力の消耗につながる。
•病気や怪我:身体の回復プロセスではエネルギーと栄養素が必要とされ、それが生命力の消耗につながることがある。

2)精神的な消耗:
•ストレスや精神的負担:日常生活のストレスや感情的な困難は、精神的エネルギーの消耗につながることがある。
•過労:長時間の労働や精神的に厳しい職場環境は、心身の健康を損ない生命力を消耗させることがある。

3)生活習慣の影響:
•不健康な食生活、睡眠不足:栄養の偏りや睡眠不足は、身体機能の低下につながり、生命力の消耗になる。

2.もてる力とは何か(以下もCHAT-GPT Vol.4より抜粋)

「もてる力」とは、その人が持つ潜在的な力や能力のことを指し、それは個人の持つ経験や学び、環境、育ち方によって形成される
1)身体的な力:筋肉の力量や運動能力、持久力などの体力的な側面。

2)知的な力:知識、学び取る能力、分析力、論理的思考など。

3)感情的・精神的な力:人間関係を築く感受性、ストレスや困難な状況に対する耐性、自分の感情をコントロールする力など。

4)社会的な力:コミュニケーション能力、リーダーシップ、人とのネットワークを築く能力など。

5)道徳的な力:正義感、誠実さ、他者への配慮や共感能力などの倫理的・道徳的価値観。

6)意志の力:自分の目標に向かって努力すること、誘惑や困難に屈しない持続力や決断力。

7)創造的な力:アイディアを生み出す能力、アートや音楽、文学などの芸術的才能。

3.回復過程とは何か

回復過程とは、身体内部に宿る修復力のことで、一般的には人体を統括して恒常性を維持するシステムの全体を指す。
また生物が内蔵する自己修復プログラムともよばれる。
ナイチンゲールKOMIケア理論では、「回復過程」を、「自然治癒力」、「回復のシステム」、または「生命の維持機構」と置き換えることがある。

体内に宿る回復過程の具体的現象としては、例えば、以下が挙げられる
1)内部環境の恒常性と安全性の保持(ホメオスタシス)

2)DNAの転写ミスによる悪影響からの立て直し

3)細胞レベルのコミュニケーション

4)細胞の作り替え(再生)

5)代償機能の発動

6)免疫機構の発動

7)腸内細菌をはじめとする微生物叢がもつ人体の防護機能

8)各臓器の連携システム

9)各種ホルモンのはたらきによる安定性と安全性の確保

10)その他

このように、体内に宿る回復のシステムは多彩にして精緻であり、内部環境および外部環境の異変や変化に応じて、その都度、必要なシステムが作動して修復作業を行っている。
これら回復のシステムは気づかれずに発動していて、その時々の結果として、修復に成功して回復したり、修復が失敗したか、追いつかずに症状が出たり、予後が決まったりするのである。
結末を決めるのは、治療(医学的ケア)のみならず、その人の生活過程のありようにあるため、看護はその人の生命力の消耗を最小にしながら、回復過程を促進させるように、生活過程を最良の状態に整えるのである。
 看護における「いのちのしくみ」や「疾病論」の学習の重要性は、生活を整える看護が「回復過程」に深くかかわっているからである。

おわりに
 新「看護の5つのものさし」は、看護の対象が誰であれ、またどのような状態であれ、活用可能である。
年齢、性別、疾病の種類や有無、場所の如何に関わらず、ケアが行われている場であれば広い範囲に適用できる。
さらに看護師に限らず介護士や家族など、ケアに携わる人ならば誰でも、理論を学び活用できる。
したがってチーム内で思考を共有し、ケアの目標を同じくして実践できるのが特徴である。
 しかし、いかなる場合でも、理論のベースは「ナイチンゲールKOMIケア理論」であるから、新「看護の5つのものさし」の理論的根拠を十分に学んだ者によるリーダーシップが不可欠となる。

【文献】
・金井 一薫(2019)、KOMIケア理論とその創出に至る歩み-日本発信の看護理論の構築を目指して、看護研究、52-3(226-234)
・薄井坦子(2014)、科学的看護論(新装版)、p.15、日本看護協会出版会