KOMIチャートシステムとは?

 「KOMIチャートシステム」は”ナイチンゲール看護思想”と”KOMIケア理論”を合体させたうえで、 その理論にもとづいて実践を展開できるように開発された“実践記録”のためのツールです。初めての方は下記の動画解説をご覧ください。

チャートの入力はパソコンやスマートフォン、タブレットからも入力可能です。

「KOMIの認知症スケール」と“スタンダードケアプラン”

はじめに
 高齢化率の着実な上昇と並行して、老人退行性疾患の代表としての認知症は、これからの社会が解明すべき最重要な疾患の一つです。
認知症ケアのあり方は、専門家集団を中心として一定の方向性が示されるまでになっており、認知症の判定尺度も数多く開発されています。さらに、介護保険制度下における認知症高齢者の介護認定においては、必要な介護量をカバーするに十分な判定が出るように改善されてきています。研究者たちの地道な努力によって、徐々に認知症の本態が明らかにされ、解明への道筋が見え始めているとはいえ、認知症ケアの主体は看護・介護者であり、また身近に暮らす家族たちです。
こうした状況下において、ケアを提供する立場から、当事者の今の生活のあり方を具体的にプログラム化する際に有効な“判定尺度の開発”と、それに伴うケアプランの方向性を示すことができるシステムを開発しました。
本システムは、認知症ケアにかかわるすべての人に活用していただけます。

1.「KOMIの認知症スケール」とは何か

「KOMIの認知症スケール」とは、認知症(認知症の種類は問わない)と診断された方々の、今の状態像をケアの視点で判定するためのスケールです。
 KOMIチャート「認識面」の黒マーク(本人がわかる・関心がある)の数をベースにして、認知症を5段階にグループ化しています。

「KOMIの認知症スケール」【表1】

グループ名 黒マークの数 認知症の段階
aグループ 31.0~25.0 記憶欠落期
bグループ 24.9~20.0 排泄障害出現期
cグループ 19.9~15.0 混乱期
dグループ 14.9~10.0 混迷期
eグループ 9.9~0 閉じこもり期

 

上記【表1】に示した内容が「KOMIの認知症スケール」です。
表の縦軸は、認知症のレベルを表しています。aからeに下がるにつれて、認知症の状態は悪化していることを示しています。“認知症の段階”は、各々のグループに属する人々の、特徴的な状態を一言で表現したものです。この表では、あくまでも認知症の方々をグループ化していますが、認知症の段階が進むにつれて、認知症のレベルが下方にある人々は、上方にあるグループの人々がもっている症状や状態の大半を引き続き持っているとみることができます。

① 各グループ別にみた「KOMIチャート」の特徴
「KOMIの認知症スケール」における5グループの特徴を、「KOMIチャート」を通して把握してみましょう。
以下のチャートを見ながら、欠けた認識部分を確認してみてください。

KOMIの認知症スケールとスタンダードケアプラン・P2

ⅰ:各グループはaからeに移行するにしたがって、KOMIチャートの「認識面」において、黒マークが段階的に欠落していき、それに伴い白マークが増えていきます。
ⅱ:白マークは、第3分野の“小管理能力”や“家計の管理能力”から欠落していくことがわかります。
ⅲ:次に第2分野の人とのかかわりに関係のある“身体の清潔”“衣服の着脱”“装い”の面における関心が薄らいでいきます。つまり自分らしさが欠落していくのです。
ⅳ:第1分野の「食べる」「眠る」という生命の維持機能は比較的最後まで残りますが、「呼吸する」空気に関心がなくなり、「排泄する」場所がわからなくなり、また「動き」に異常(徘徊など)が見られるなどの障害が出現していることも見て取れます。
ⅴ:このようにKOMIチャートの「認識面」の黒マークの全体像を見ることで、認知症が今、どの段階で、どのような状態を引き起こしているのかを知ることができます。

ⅵ:認知症が最も悪化したeグループの黒マークを確認してみましょう。認知症がどのように悪化しても、最後まで残る認識機能として、次の事柄が挙げられます。これらの事柄を大事にしながら関わりを持ちたいものです。

KOMIの認知症スケールとスタンダードケアプラン・2017-4-P3

② 各グループ別にみた「KOMIレーダーチャート」の特徴
「KOMIの認知症スケール」における5グループの特徴を、「KOMIレーダーチャート」を通して把握してみましょう。
次の図を参照してください。

KOMIの認知症スケールとスタンダードケアプラン・2017-4-P4

ⅰ:「KOMIチャート」と同様に、「KOMIレーダーチャート」が示す“生命力の姿”は、aグループからeグループに移行するにしたがって、段階的に小さくなっていくことがわかります。
ⅱ:「KOMIレーダーチャート」からみて、a~bグループの人々は、身体機能にはさほどの障害がみられません。
ⅲ:「KOMIレーダーチャート」からみて、認知症のプロセスとして、初期の段階から“物忘れ”や“感情の乱れ”などがあり、その後、徐々に排泄機能と同時に運動機能が衰えてきて、身の回りのことができなくなり、最後に、聴覚・視覚などの感覚機能の衰えと同時に、食べることが不自由になっていくということがわかります。
ⅳ:eグループにおいては、呼吸・循環・体温は正常ですが、知的機能が衰えて自己判断能力が失われ、オムツをあててほぼ寝たきりになり、生活のすべてを他人に委ねている状態になることが多いです。
ⅴ:「KOMIレーダーチャート」には身体面の特徴が顕著に表れます。そのため認知症以外の身体疾患(例えば骨粗鬆症やリウマチなど)を持つ人のレーダーチャートは、その初期の段階から身体疾患の特徴をも同時に表示してしまいやすいです。
そのような事例においては、認知症特有の生命の姿を認めることができません。したがって「KOMIレーダーチャート」を活用して個別のケアプランを立案するときには、この点を十分に考慮する必要があります。

2.スタンダードケアプラン立案の試み

 下記の6つの原則は、a~eグループのどのグループに属する人々にも適用できる「認知症ケアの大原則」に相当するものです。認知症のケアにあたっては、すべての人々に対して、この原則から逸脱しないように取り組むことが大切です。
スタンダードケアプラン策定の大原則
① 失われた能力を追いかけない。
② 残された力、健康な力を活用する。
③ 人間として尊厳ある生活を実現する。(縛らない、叱らない、薬漬けにしないなど)
④ 心地よいと思える刺激をふんだんに提供する。
⑤ 「なじみの関係」「なじんだ暮らし」を維持する。
⑥ 正確な観察を通して認知症特有の病状を把握し、正しいケアと治療につなげる。
 特に⑥に掲げた方針には留意してください。最近では認知症の型がいくつか存在することがわかってきていますので、認知症という病気を一括りに見ないで、「アルツハイマー型認知症」、「レビー小体型認知症」、「血管型認知症」、「前頭側頭型認知症」などと分類して思考し、それぞれの型に特有の症状や病状を見逃さない観察力が必要とされています。殊に「レビー小体型認知症」に特有な症状(幻視・歩行障害・起立性低血圧など)や「前頭側頭型認知症」に見られる常同行動や食行動異常、または会話の障害などを、他の疾患とみなしてしまうことによって、ケアプランの方向性や治療そのものが不適切になることを防ぎましょう。

(1)各グループのスタンダードケアプラン

ここでは各グループの人々が持つ“残された力”や“健康な力”に光をあて、グループ別にケアの標準化を試みました。
対象の方の所属グループが判明しましたら、以下に掲げるグループ別ケアプランを参考にしながら、適切な内容を取り出して“その人のケアプラン”として設定してください。

① aグループ ~bグループのスタンダードケアプラン
1.なじんだ暮らし、普通の暮らしの中であれば、自分らしさを保って生活できるので、積極的な生き方ができるように支援する。
2.なじんだ暮らし、普通の暮らしの中で、その人らしさが強調されるような(得意なことが活かせるような)生活のプログラムを創る。
3.人と交わることが楽しいと感じられる時間や、その機会を多く創り出す。
4.自然との触れ合いや、ペットなどとの触れ合いを大事にする。
5.自信を喪失しないように支える(決して、叱ったり、責めたりなどしない)。
6.できないことは何かを、具体的に、丁寧に見極め、その点についてのみ、何気なく援助する。
7.心身の不調に対する訴えには、十分に耳を傾けて対応する。

② bグループ ~cグループのスタンダードケアプラン
1.これまで習慣的に行ってきた事柄は、継続して行えるように、自立維持のプログラムを創る。
2.「自分の役割がある」「自分も役に立っている」という、自信に繋がるような支援プログラムを創る。
3.問題行動が多くなるが、決して否定的な言葉や態度をとらない。
4.自発性は乏しいが、外からの刺激や関わりには反応できるので、快なる刺激をたっぷりと提供する(昔を思い起こすような会話、音楽、ユーモアと笑いなど)。
5.社会との接点を保てるような積極的なプログラムを創る。

③ cグループ~dグループのスタンダードケアプラン
1.今の自分の居場所に安心感や確信が持てるように、生活環境を整える。
2.安心した、居心地のよい空間を創り、その人のリズムで暮らせるように支援する。
3.住環境に危険要素が無いように整える。
4.行動に振り回されるのではなく、残された健康な力を見極め、その力が燃えるように、“生活の活性化”という点に目標を合わせる。
5.決して、孤独にさせたり、隔離したり、抑制したりしない。
6.薬の力に頼ろうとしない。
7.人間としての尊厳ある生活、その人らしい生活が保たれるように十分な配慮をする。

④ dグループ~eグループのスタンダードケアプラン
1.自発性の欠如が目立つ時期であるが、できる限り閉じこもりの生活にならないように、生活の中に刺激を多く創る。
2.積極的にスキンシップ(ボディタッチやマッサージなど)をして、人と触れ合っているという安心感が持てるようにする。
3.陽光の中できれいな空気が感じられるように、条件を整えて、外出の機会を多く創り出す。
4.食べる楽しみを奪わないように、食の工夫をする。
  5.こだわりがあれば、そのこだわりを大切にする。
6.安らかな死が迎えられるように、家族とも十分なコンタクトを取りながら、あらゆる生活の条件を整える。
7.人間の尊厳が保たれるように、関わりの質に十分な配慮をする。
8.残されたわずかな力を評価し、その力に積極的に支援の力を貸す。

 グループ別のスタンダードケアプランは、グループの枠を超えて適切な表現を活用することは可能です。対象者の個別の条件や状況に応じて、適切な文章をこの27項目の中から選んで、ケアの方針として明記してください。

3.認知症のケアプラン作成時の手順と実際

 認知症と診断された人々へのケアプランを作成するにあたっては、以下の手順を踏んで行います。
(1)「KOMIチャート」の“認識面”を正確にマークします。
(2)「KOMIレーダーチャート」を作成します。
(3)「認識面」の黒マークを数えて、「KOMIの認知症スケール」と照らし合わせ、その人が今どのグループに属するのかを決定します。
(4)当該グループの「スタンダードケアプラン」を参考にしながら、まずは「ケアの方向性」を打ち出し、その後にその人に適した「個別のケアプラン」を立案します。

 

【参考文献】

金井一薫:実践を創る 新・KOMIチャートシステム、 p.71~87、現代社、2013.